「坐骨神経痛」について【1】


 今回は、「坐骨(ざこつ)神経痛」について説明します。
 一般的に「坐骨」とは、左右の尻に触れる隆起した骨(坐骨結節)のことで、椅子に座るときなどに体重を支える役割を果たします。従って、坐骨神経痛は尻(坐骨)の痛みのようですが、実は「坐骨神経」という神経が傷害されて起こる症状のことです。
 

 その坐骨神経は第4、第5腰(よう)神経と第1〜第3仙骨神経の枝で構成され、身体の中で最も長い神経です。図1のように股関節の後方を回って、尻から太ももを経由して脹脛(ふくらはぎ)や足の裏、膝(ひざ)の外側から足の甲などに分布します。

 
 このような坐骨神経はまれに末梢(まっしょう)でも傷害されますが、たいていは腰椎(ようつい)の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)などの脊柱疾患が原因となります。特に脊柱疾患では第4、第5腰神経、第1仙骨神経が傷害されやすく、それぞれ図1の【1】【2】【3】に痛みを生じます。つまり、坐骨神経痛の症状から傷害された神経を予想することが可能です。

 
 「2、3日前から右の尻と足首に違和感がありました。それが昨晩から激しい痛みに変わり、今では一人で動くこともままなりません」─。

 

 

 この症例は50歳代の男性で、家人に支えられて受診しました。痛む側の右膝を少し曲げて歩く姿が印象的で、椅子に座れば痛みが強くなるとのことで、立ったままでの診察となりました。このような状況だけでも坐骨神経痛が濃厚で、図1の【2】【3】が痛むことから、特に第5腰神経と第1仙骨神経の傷害が疑われました。案の定、後ほどの検査で第4と第5腰椎の間に原因となる椎間板ヘルニアを認めました。

 
 先述のように坐骨神経は身体の中心より後ろ(背側)を通るため、図2のように仰向けで膝を伸ばした状態で脚を上げる(股関節を曲げる)と、坐骨神経には強い張力(引っ張る力)が加わります。

 
 また、歩行の際も図2と同様に膝が伸びた瞬間に張力が最大となります。もちろん、椅子に座ると股関節が曲がりますし、尻の下の坐骨神経が直接に圧迫されて刺激されます。健常者ではこれらの姿勢で痛みを生じることはありませんが、坐骨神経が傷害されている場合には容易に痛みが誘発されます。この症例が膝を曲げて歩き、椅子に座れなかったのは坐骨神経痛が起こらないための自己防衛策だったことが分かります。